クリエイティブ・イルネス(創造的病)〜ゴッホの場合
美咲です。
先日、「ゴッホとゴーギャン展」(東京都美術館)に行ってきました。↓
さて、今日はゴッホがテーマです。
なぜかって?、純粋にゴッホの絵が好きだから。あの鮮やかな色彩が好きです。そして、ゴッホの絵にはドラマがある。まぁ、耳を切り落としてしまうくらいだから、強烈ですよね。
絵の才能は、ゴッホより優れた芸術家は他にも大勢いらっしゃるのではないかと思います。たとえば、ボナールとか。けれど、何よりもゴッホの人生にはストーリー(物語)があります。ゴッホにはもちろん絵画的な力がありますが、作品にドラマが付加されているので、ゴッホは今もなお“今”の人として生き残っているのでしょう。
ゴッホとゴーギャンは、光溢れるアルルの町で一緒に2ヶ月を過ごしました。二人の画風は、大きく異なります。ゴッホは現実の対象を見て、力強い筆触と鮮やかな色彩で描きます。ゴーギャンは装飾的な線と色面を用いて、想像力も駆使し、目には見えない世界を表現しようとしました。二人は連れ立って写生に出かけることもあったそうです。
けれど、そんな二人も決別することになります。二人は意見が合わず、口論が絶えなかったそうです。ゴッホはやがて不眠や夢遊病のような行動を起こすようになりました。そしてクリスマスイブの前日、あの有名な「耳切り事件」が起こったのです。ゴーギャンの後の回想によると、路上で夜ゴッホがゴーギャンにカミソリで斬り掛かったそうですが、未遂に終わり、その後に自分の左耳を切り落とし、なじみの娼婦に届けたのだそうです。翌日、ゴーギャンはアルルの町を去ったそうです。二人の関係は決別したかのように見えますが、ゴーギャンによると、実りも大きかったようです。そしてゴッホはのちに代表作とも言える「向日葵」を生み出すのです。*1
(画像引用:File:Self-Portrait3.jpg - Wikipedia)
ゴッホは果たして心の病だったのでしょうか。
さまざまな研究者がゴッホを精神医学的に解き明かそうとしてきましたが、結論は出ていません。統合失調症、てんかん、鬱病説あり、側頭葉てんかんと関連づけたゲシュヴィント症候群という説もありました。実は南方熊楠もゲシュヴィント症候群だったという説があります。精神科医の斎藤環さんは、ゴッホはてんかんの亜型ではないかと話しています。たとえば「星月夜」の美しくいびつなうねりはてんかん発作の直前に現れる”アウラ”ではないかとも。*2
(画像引用:ファイル:VanGogh-starry night.jpg - Wikipedia)
ゴッホがどんな心の病だったのか、結局はなんの精神病だったのかは分かりません。耳を切り落としたのは、耳鳴りがひどかったからという説もあるのです。斎藤環さんのおっしゃるようにてんかんの一種だとしたら、納得のいく説明です。わたし自身、あんまり片頭痛がひどいときは、頭の血管を引き抜きたくなるくらいツラくなるから、そんな気持ちも何となく理解できるのです。
ゴッホの人生を振り返ると、成功とはほど遠い挫折の連続です。
家庭には恵まれず、母には愛されず、父とも衝突。変わり者としてみられ周りから受け入れられず、失業、一心同体になったかと信じた友との決別、失恋、未来も見えず、それでも彼は絵を描き続けました。ゴッホにとって描くことは生きることだったのですね。けれど、絵は一向に売れません。彼は精神病院に隔離され、孤立感も強かったはずです。絵を描くことが彼の心の病の治療になったのかもしれません。いや、この彼の持つ心の病は彼のクリエイティビティの起爆剤になったといっても言い過ぎではないでしょう。彼の持つ病が、新しいものを創造する原動力となったのです。
ゴッホの場合は自殺という悲劇で人生の幕を閉じてしまいました。しかし河合隼雄先生によると、創造的な仕事をした人たちを調べてみると、特に中年に心の病を体験している人が多いらしいのです。けれども昨今増えてきている軽いうつ病などの心の病というものが、人間の成長にとってはある程度必要なのではないかと話しておられました。最近ではこの点を注目して、”クリエイティブ・イルネス(創造の病)”という表現を使う人が出ているようです。*3
病を持つ事で、自分の生き方をふりかえり、生き方を変えていく。わたしたちは特別な発見などしなくても、自分の人生もしくは生き方を創造していかないといけないのです。毎日忙しいと、自分をおろそかにするようなことばかりしているのかもしれません。心の病をもつことで、「自分は何者なのか?」「何をなすべく生かされているのか?」と振り返ることができるのかもしれません。
ゴッホの絵が時を超え、文化や国を超えて愛される理由には彼の絵画には強い普遍性があるからでしょう。現代を生きる私たちと一緒に生きる「同世代人」のゴッホ。生きている間は成功せず一枚も絵が売れなかったからこそ”ゴッホ神話”ができたのかもしれませんが、他の有名な画家、一世を風靡した芸術家にはないストーリーがあるのは、心の病を起爆剤にして創造性を発揮したからではないでしょうか。
展示会では、わたしの好きな「靴」の絵もありました。苦難にみちた人生を象徴する靴。貧乏で、履き古された革靴しか描くことができなかったのですが、その靴の絵がいまや数億円もするのですから、ストーリー(物語)の付加する価値はすごいです。
今日のコラムは短かったでしょう。んじゃねー!
(画像引用:きたとしたか アートワーク アーカイブス)