Misakiの曼荼羅ブログ

人間と自然、日本と世界、地球と地域、女と男などの臨界点を見据えながら、日々の出来事を綴るブログ

落語 『河童爺さんの終活』

 さて、今日は皆様に、河童爺さんの話をしちゃおうじゃないか。水泳が得意
で、水にこだわりを持つ、それがあだ名の由来となった80才のおっさん、河童
爺さん。府中の団地で独り暮らししてるんだ。そんな河童さん、実は青梅に土
地や株を持っている、なんとお金持ちなんだ。でも、その財産をどう分けるか
で頭を悩ませているんだ。なんでかって?なんと、3人の息子がいるんだけど、
どれもこれもろくなもんじゃない。ケチで金銭感覚にシビアな河童さん、どう
やったらいいのか分からなくて、毎日愚痴ばっかりこぼしているんだってよ。
「ああ、どうしよう。俺が死んだら、この財産はどうなるんだろう。3人とも
信用できないやつらだ。誰にも渡したくないよ」
 さて、お話の続きだ。相談相手は、同じ団地に住んでいるんだが、なんと老
人お助け隊というボランティア活動をやっている、マモルくんって奴なんだ。
団地のお年寄りのお買い物や掃除、あるいはおしゃべり相手をしているらしい。
河童さん、いつもマモルくんにグチグチ文句をこぼしてるらしいぜ。そんなわ
けで、マモルくんは、河童さんのことを「小言河童爺さん」と呼んでいるんだ
って。
「マモルくん、今日はよく来てくれたね。ちょっと相談があるんだけど、いや
ねぇ、わしもそろそろ終活しなくちゃと考えとるんじゃ」
「いまごろですか?えらい呑気ですね」
「まぁ、3人のうち誰が継げば、河童家が一番栄えるか、見てほしいんじゃ」
「無茶ですわ。ボク、ただのお助け隊ですよ。かなんなぁ~」
「マモルくん、お願いしますぅ」
「河童爺さんにずっとグチグチ言われるのもなぁ、しゃーない。わかりました
わ。何すればいいんですか?」
「うん、よしきた!マモルくん!せめてワシが死んだときどうするか聞いてみ
てくれないか。それで息子たちの金銭感覚がわかるだろう」
「うーん。そうですか。それなら、試してみますわ」
「オモシロそうだ。ワクワクするよ」
 マモル、じゃあ、まずは長男に電話をかけることになったわけですよ。
「私、府中団地のお助け隊のマモルと申します。突然のご連絡失礼いたします。
実はお父様の河童様より依頼がありまして、ご連絡させていただいております。
お父様が亡くなられた際のお葬式のことを亀太郎さまより考えを聞くよう、申
しつけられました」
「何ですか?父は直接ボクと話したらいいことですに」
「ほんまそうですね。いや、失礼。で、どうされますか?」 
「うん。まぁ、そうですな。オヤジの葬式は盛大にやらなきゃいけませんよ。
オヤジは河童家の初代ですから、地元の琵琶湖で立派な葬式をします。通夜は
2日間やって、本葬は彦根城で行います。地元の支持者にインパクト与えるた
めにね。東京で葬式すると、オヤジが団地住まいだったことがバレてしまうし
ねぇ。ちなみに青梅の山林や株はいらない。弟たちに譲ります。参列者には高
級な弁当とお酒を。さらに豪華な引き出物も渡してあげます。とにかく、一に
も二も人脈!!」 
「団地にワシが住んでいることを恥じるなんて、ふざけるな!親の死を利用す
るとは何事だ!」
 ほらね、怒りっぽい爺さんをなだめつつ、次男のフグ次郎に電話をかけるた
めに、マモルくんがその手筈に取り掛かったんだ。
「僕は府中団地のお助けよろづ相談所のマモルと申しまして、実はお父様の河
童さまから依頼を受けました」 
「父さん、どうしたの?」 
「はい。お元気なんですけど、終活のご相談なんです。お葬式をフグ次郎さん
なら、どう取り仕切るか知りたいそうです。フグ次郎さんならどうお葬式を取
り仕切りますか?」
「マモルくんだっけ?よく聞いてくれたねぇ!なにせ、ボクはイベントに関し
てなら、日本でナンバーワンのイベントプロデューサーなんだよ。お父さんの
葬式は楽しいものにしますよ。吉本の芸人さんを呼んでバラエティ番組を作り
ます。「愛と涙の河童物語24時間放映!」という番組を葬式のときに放映しま
すよ。芸能人に24時間マラソンさせようかな。団地での老人の孤独死も問題に
なっているから「社会問題を解決する」クラファンもそのときにつくります。
NFTも活用しますよ。お父さんのロボットや神輿や花火や位牌も作りますよ。
でも青梅の山林や株はいらない。相続税が高すぎますからねぇ」 
「俺が孤独死するみたいに言うな!葬式をお祭りにするとは何だ!でもなんで
二人とも青梅の山と株はいらないんだ」 
「河童さん、フグ次郎さんって、意外にもたくさん徳積みしてはりますやん。
毒吐いてばかりいるわけちゃうねんな」 
 なかなか疲れがたまったマモルも、そこは頑張りぬいて、三男の蛇三郎に電
話をかけたって訳さ。
「今さ、アマゾンでSDGsのキャンペーンをやっているんだよ。いらなくなった
ものを再利用しろって。なんでも、アマゾンから送られてきた段ボールで送っ
たら、再利用してくれる。環境のために活用するって言ってるんだ。ええっと、
人間の遺体の場合、アマゾン川のピラニアの餌になるってんだ。エコだね。 
環境にいいし、これ全部無料なんだよ。なにせSDGsだからな。さすがアマゾン
だよね。あっ、それから青梅の山も株もいらないから、それ、言っといて」 
それを聞いた河童爺さんは涙ぐんじゃんってね、 
「なぜ、河童のオレが川でピラニアの餌にならなきゃいけないんだよぉ。青梅
の山だって、台湾事変があれば、日本だって何が起こるか分からない。平和ボ
ケした日本人には理解できないだろうが、ワシは息子たちに備えとしての防空
壕を残したいだけなんだよぉ」
「蛇三郎さん、さすがに遺体をピラニアの餌にするのはいきすぎ。エコもほど
ほどにせんと」 
「まぁ、今はコロナ禍ですからね。葬式は家族だけにするのが主流だけど、そ
れもコストがかかるよね。火葬場に直接行くのが一番合理的。ヴァンで火葬場
まで運ぶとなったら、ヴァンのレンタル代と、私以外にもう一人雇わないとい
けないし。オヤジの遺体を段ボールで包んで、ドローンを借りて、火葬場まで
運ぶことも考えられるよね。その方がコストも安くつくよね」 
さて、そこで河童爺さんが電話に出て、三男のアイデアを一喝したのさ。
「やめろ!俺が自分でドローンになって飛ぶんだ!」 
「オヤジ、いい加減にしろよ」
「それが河童の生き方だ」 
「マモルくんでもう4人目じゃないか。オヤコで遺産相続プレイ、もうおしま
いにしよう。大学生の反応を見て、楽しむのは終わり。そもそも 父さんは暇
で自分の心配ばかりしているから孤独なんじゃないか。父さんは老人と言って
も100才まで後20年もある。グチグチ言っていないで、団地で人だすけしたら
どうかな、マモルくんと一緒に」 
「ほぅ、なるほど、そうだな。俺も、老人お助け隊にマモルくんと一緒に加わ
るとするか。団地の人々に笑顔をもたらせる手伝いをしようじゃないか」
「河童さん、それは素晴らしい。ぜひ一緒にやりましょう」  
 河童爺さん、団地のボランティア活動に翌月から参加すると、得意の水道節
約術を伝授しまくり、水辺の清掃や保全にも手を貸しまくって、もう大活躍の
一言さ!
「河童さん、もはや”エコの大家”やなぁ。昨日の自治会月例セミナー50人集
客したで」
「マモルくん、なあ、実はさ、青梅の山の水源地の水質を良くしようってプロ
ジェクトをスタートしたんだ。水質を向上させるためのテクニックや設備を導
入する方法を知っているのは、河童族のワシだけだ。80才になって、ついにそ
のヒミツを伝えることができるようになったんだ。それで利益を上げることが
できるのが、なんて嬉しいことかな!」
お後がよろしいようで。